コンピューターゲームの基幹ソフト(ゲームエンジン)を転用して、
建設現場や工場の効率化を進める動きが出ています。
主導するのはアメリカ大手のユニティ・テクノロジーズで、
日本のゼネコンなどに売り込みを始めています。
自動運転の分野など活用範囲は広く、製造業のDX
(デジタルトランスフォーメーション)の新しい流れになる
可能性がありそうです。
ゲームエンジンとは、画像(CG)制作や音声再生、
コントローラーからの入力処理といったコンピューターゲーム
共通のデータ管理を効率化する基本ソフトのこと。
使い勝手の良さもあり、多くの学生や個人が趣味で使っており、
産業用に活用した場合、研究者とエンジニア、デザイナー同士が
連携しやすくなるなどのメリットがあります。
ユニティ・テクノロジーズの「ユニティ(Unity)」は
世界で最も普及しているゲームエンジンで、
主要モバイルゲームの7割で使われており、
そのゲームアプリ総計の月間ダウンロード数は40億件にのぼります。
ユニティは、仮想空間でキャラクターが動き回ったり、
多様なアイテムを付け替えたり、レーシングカーが速さを競ったり
といったゲームの基本的な機能と併せて、現実世界を仮想空間に
再現する「デジタルツイン(注)」の技術を使うことで、
現場作業員の負担を減らしたり、建設や製造現場の作業効率を高めたり
といった一般産業用ツールの開発を可能にします。
例えば、オフィスビルにユニティを用いる場合、
仮想空間上に作った現実世界そっくりのオフィスで、
家具や備品、配線をどうレイアウトするかをシミュレーションし、
事前に最適なレイアウトを探ることで現場作業を減らし、
人員の配置などを効率化できます。
アメリカだけでなく日本も有望なユニティ市場とみられていて、
日本法人のユニティ・テクノロジーズ・ジャパンを通じて、
大手ゼネコン向けに作業効率化のツールとして販売を始めます。
産業向けの「ユニティ・インダストリアル」は年間約70万円で提供され、
使い方によって作業効率が2割ほど向上するといわれています。
既に川崎重工業はユニティを使って、ロボットの動きなどを
シミュレーションし、実際のロボットを選定する際に役立てる
取り組みを始めています。
また、CAD(コンピューターによる設計)の膨大なデータも、
ユニティ向けに独自に変換し取り込むことできるので、
リアルでは手間も資金もかかる多くの実験がデジタルツインで
可能になります。
例えば、仮想の道路で仮想の自動運転車を何百万キロも走らせ、
データを蓄積して走行距離を積み上げることで
カーブの角度によってブレーキを踏むタイミングを調整したり、
車線の白線を検知できるレベルを計算したり、といった
使い方が期待できます。
また、デジタルツイン上で他のツールと連携させることで、
気候条件など環境の変化が自動運転車にどう影響するかを
予測することも可能です。
ゲームの技術はエンターテイメントだけにとどまらず、
これまでも新しい技術を育む場として活用されてきましたが、
これからは、ますます私たちの身近なところでその効果を
感じることでしょう。
(注)現実の世界から収集した、さまざまなデータを、
まるで双子であるかのように、コンピュータ上で再現する技術。