「デジタルツイン」とは、文字通り現実世界の街や建物などを
”双子”のように再現する技術のことです。
「未来の産業のカギ」とも言われ、
世界各国で国家戦略にも盛り込まれ開発競争が進んでいます。
今回は実例を見ながら、どのような技術なのかを紹介していきます。
(1)運搬作業の効率化
中国の深センの港をデジタルツインで再現したものには、
10万近いコンテナの位置のほか、コンテナを運ぶ車のリアルタイムの
動きが克明に表示されています。
港の様子や運び込まれるコンテナの情報は、施設内に設置された
センサーやカメラなどから、0.5秒に一度という高頻度で情報が伝達され
常に最新の港の状態を反映したデジタルツインが作成されています。
このデジタルツイン上では視点を自由に切り替えることができ、
港全体の様子を簡単に把握することができます。
この随時更新されるデジタルツインがもたらすメリットは
運搬作業の効率化。
大量のコンテナをどのトラックで、どうやって運べば最も
効率的なのか全体状況を踏まえて予測することができるため、
現場スタッフの負担を軽減することができます。
結果、デジタルツインの導入前に比べ、生産効率が3割アップした
とのことです。
(2)ゲーム開発の技術を自動運転に活用
デジタルツインの開発にはゲームCGの制作技術が大きく
関わっています。
都内のあるゲーム開発会社は、大手自動車メーカーとその関連企業から
依頼を受け、東京の街並みを再現したデジタルツインを制作しました。
自動運転技術では、AIが危険を回避しますが、その精度を上げるには、
天候や路面状況など、様々な走行環境でシミュレーションを、
繰り返しAIが学習する必要があります。
しかし、実際の道路を走行させAIに学習させるには
膨大なコストと時間がかかりますが、「ゲームエンジン」という
ソフトウエアを使えば、天候、時間を自由自在に変化させることで、
経年劣化した横断歩道まで映像表現が可能です。
リスクを回避するため、より多くの条件下で走行させ
学習する必要がある自動運転のAIにとって、 デジタルツインは
様々な条件下の道路を一度にたくさん学習することができるので、
自動運転技術の開発上、取って代わることのできない存在に
なっているそうです。
(3)人手不足の救世主にも
日本全国に現場を抱える、ある建設会社では、
工事の進捗状況を月に何度も出張して確認することが通例だったのを、
デジタルツインを使って、ミリ単位の精密さで設計図通りに進んでいるか
現場に通わず確認できる取り組みをしています。
移動の時間も減り、一人がいろんな所の確認ができるとかなり
効率が上がる見込みで、 この会社で2022年4月から現場で試験的に
運用を始め、現場確認のための社員の出張を削減できると
期待しています。
(4)町のインフラ”を支える
デジタルツインが今大きな潜在的な可能性を秘めていると
言われているのが「町づくりへの活用」です。
中国・湖南省の駅に導入されているデジタルツインでは、 昨年、
混雑を解消するためにデジタルツインが導入されました。
1日28万人もの乗客が利用するこの駅で、デジタルツインを
確認できるモニターには、駅構内のセンサーなどで検知された利用者の
移動の様子や利用者の密度、さらには二酸化炭素の濃度などの情報が
表示されています。
さらに乗客の「年齢」「性別」「移動速度」「荷物の有無」などの
属性を確認し、 駅に来てから離れるまでの滞留時間を予測し、
駅全体の混雑予測を行っています。
混雑が続くと予測されれば、改札や入り口を閉鎖するなどの
対策を施し、 現実の人の流れを制御することで混雑緩和に
つなげているとのことです。
このデジタルツインの導入によって、
駅のマネジメント効率が10倍に高まり、管理に従事する要員を
1割削減するに至ったと報告されているそうです。
(5)地上40階建てのオフィスタワー
平日およそ1万4000人が利用しているビル内に、
およそ1400個のセンサーやカメラが設置され、人の動きの情報が、
建物のデジタルツインにリアルタイムで反映されています。
人が密集している場所は、赤く表示され、どのフロアのどこが
混雑しているのか、死角もなく一目でわかる仕組みです。
人の動きをリアルタイムで把握できることで、
平時のビルの安全管理に利用するほか、 災害時の避難誘導などへの
活用も検討しているそうです。
デジタルツインで使われるのは、
個人を特定しない形に変えたデータのみで、プライバシー保護のための
国が設けたガイドラインを順守しているとのことです。
さらに、安全管理や防災対策だけでなく、
飲食店エリアの利用促進策として、 デジタルツインで空いている店舗を
把握し、割引クーポンを配布する仕組みを導入できないかと計画を
進めているそうです。
これまで、エンターテインメント1分野と認識されていた
ゲームのデジタル空間が、現実世界に影響を与えうる存在に
なりつつあるのが現状のようで、新たな時代の予感を感じました。