不動産業界でデジタル技術を活用したスタートアップのサービスが 相次いでいます。 今回は、その中から気になるトピックを取り上げて紹介します。 中小事業者が多く、取引が高額な不動産業界ですが、 インターネットでの物件探しなどは普及している一方で、 対面の内見や書面の契約を重視してきましたが、コロナ禍を機に デジタル化にシフトする動きが見られます。 改正宅建業法が5月に施行され、不動産取引の電子契約が解禁された という規制緩和の追い風も吹いていて、矢野経済研究所では、 不動産テック市場が2025年度に1兆2461億円と、2020年度の2倍に拡大する と予測しており、 物件の仲介・管理の支援サービスや中古住宅市場を 有望分野と見込んでいます。 不動産賃貸取引の電子契約サービスを提供するイタンジ株式会社などが 2022年6~7月に実施した調査によると、デジタルトランスフォーメーション (DX)に取り組んでいるか、取り組む予定の不動産会社は計7割に達し、 目的(複数回答)は業務効率化が93%と最も多く、顧客満足度の向上が 53%で続きました。 仮想現実(VR)開発の株式会社スペースリーは間取りを3次元(3D)化し、 家具を置いた様子を確認できるVR作成ソフトを2023年2月に 不動産仲介事業者向けに発売。 市販の360度カメラで物件を撮影し、間取りをVRとして再現し、 仲介事業者がホームページで賃貸物件を紹介する際に使ってもらう 仕組みです。 一般的な映像会社にVR制作を依頼した場合は3D専用カメラが必要となり、 撮影から完成までに数日かかりますが、スペースリーのソフトは 床や壁などの距離を自動で測る人工知能(AI)を搭載しており、 市販カメラと組み合わせると数時間でVRが作成可能です。 VR上にソファやテレビ台などの家具を置いたり、室内の距離を測ったり できる点も特徴で、ソファであれば大きさやブランドが異なる約50種類を ベースに配色を変え、利用者所有と近いソファを選べるようにし、 実際に内見しなくても、物件のイメージを湧きやすくします。 スペースリーは定点から好きな方向を見渡せるVRを作成するソフトの大手で、 培ってきた技術を新ソフトでも生かすとのこと。 国内の不動産仲介事業者・管理会社の主要100社のうち4割が同社商品を 利用しているため、 既存顧客に新ソフトへの切り替えを勧め、 業界標準のサービスに育てたいと考えています。 不動産システム開発のいえらぶGROUPは、賃貸物件の管理会社が仲介事業者に 空室情報を共有するシステムに電子契約機能を追加し、物件確認から内見予約、 契約という一連の手続きをオンライン上で完結させるサービスを提供。 入居希望者が専用フォームに必要事項を入力すれば契約できるようにし、 従来のように入居希望者が契約書を手書きで作成し仲介会社が管理会社に 郵送する手間をなくすことで、 業務効率化やペーパーレス化の需要を 取り込む狙いです。 不動産オーナーのために開発されたクラウド不動産収支管理ソフト 「大家のヤモリ」を提供する株式会社ヤモリは、中古住宅市場に注目。 不動産の運用を始める個人向けに、家賃収入などを試算するサービスを 開始しました。 利用者が物件価格やリフォーム費用などをクラウドに入力すると、 減価償却や税金を組み合わせ、購入後30年間の損益とキャッシュフローを予測。 年収や自己資金割合などから適切な借り入れ条件も提案する仕組みで、 これまでの不動産運用では、仲介会社が収益を予測するのが一般的だったのが ヤモリに所属する専門家が相談に乗り、データを踏まえて家賃設定や 売却のタイミングなどを助言するサービスも提供します。 規制緩和も追い風となり、国内で活用が広がり始めた不動産テックは 今のところ手探りな部分も少なくないですが、新興勢の相次ぐ加入は これからのサービスの進化に期待ができそうです。