先日、政府が法的効力がある遺言書をインターネット上で 作成・保管できる制度の創設を調整しているとの発表がありました。 法務省が年内に有識者らで構成する研究会を立ち上げ、 2024年3月を目標に新制度の方向性を提言するとのことで、 法務大臣の諮問機関である法制審議会の議論を経て 民法などの法改正をめざしています。 署名・押印に代わる本人確認手段や改ざん防止の仕組みをつくり、 デジタル社会で使いやすい遺言制度の導入により、円滑な相続に つなげることが目的だそうですが、 昨今、相続を巡る課題を解消しようとスタートアップ (社会にイノベーションを生みだすことで、起業から短期間で 急成長を遂げる企業) が動きはじめています。 今回は、そんなスタートアップの取り組みをいくつかご紹介します。 家族信託サービスを手掛けるトリニティ・テクノロジーは、 単身高齢者の銀行口座と自社システムをデータ連携し、 不正な引き出しなどを監視するサービスを始めました。 https://trinity-tech.co.jp/ これは、利用者が銀行や信託銀行に開いた口座とデータ連携し、 専用システムで確認できるようにしたもので、預貯金を 公共料金の支払いや病院の診療費などに充てられるように、 利用者には司法書士や行政書士と財産の管理委託契約を 結んでもらうことにしています。 その取引履歴をチェックし、不正が疑われる引き出しなどを 見つけたら状況を確認し、遠方の親戚などにも共有する仕組みです。 身寄りがない場合、葬儀の代行などを請け負う公益財団法人に 資金を預ける高齢者も多いのですが、その資金が流用される事件も 過去には起きており、同社は、高齢者の財産が十分に監督されていない 課題を解決したいとしています。 相続手続きはアナログな部分が多い領域で、書類の名義変更のために 何度も役所に足を運ぶことも。 また、金融機関でも収益機会の大きい他の事業と比較して、 相続はデジタル投資などが遅れているとされています。 家族信託の使い勝手向上に取り組むファミトラ社は、 自社コンサルタント向けシステムを一般向けにも提供しています。 https://www.famitra.jp/ 家族信託は、認知症や介護時に備え、財産の管理や処分を家族に 委託する方法。 後見人制度などと比較して自由度が高いため、利用が広がる反面、 手続きに専門知識が必要となる点が課題でした。 同社のシステムでは、資産や債務、健康状態などのデータを整理し、 本人確認書類や印鑑登録証明書の提出などの煩雑な作業の手順も わかりやすく示しています。 「終活ナビ」なども運用している、AGE technologies (エイジ・テクノロジーズ)では、株式や投資信託、生命保険など 幅広い相続財産手続きをサポートしています。 https://age-technologies.co.jp/ 現状は、相続した不動産の名義変更と銀行口座払い戻しを支援する オンラインサービスを手掛けており、戸籍抄本や固定資産評価証明書 などの取得代行なども行っています。 利用者がスマホやパソコンで情報を入力すれば、必要書類を手軽に 作成でき、現在までに2万件を超える不動産を扱ったとのこと。 今後はこの仕組みを株式などにも応用するとしています。 2021年に東京や大阪の都市部に暮らす50〜60代へ調査した結果では、 別居している親の資産を「把握していない」と回答した割合は 63.5%に上っています。 相続手続きを巡っては政府も「死亡・相続ワンストップサービス」 を目標に掲げており、情報のデジタル化やオンライン認証などを 通じて、相続人の負担軽減を目指しています。 総務省の家計調査(2021年)では、2人以上の世帯の貯蓄額は、 世帯主が70歳以上の場合、約2,310万円。 準備不足で相続が円滑に進まない場合は資産凍結の懸念もあり、 65歳以上の時人口が総人口の3割に迫るなかで、相続問題の解決は 待ったなしの状態といえます。